第一話 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16


 木造の学校らしき建物の一室。
 その真ん中辺りに何かがぶら下がっており、ギィギィと時折音を立てて揺れていた。
 それの上の方へ視線を向けると、暖房設備か何かのパイプに縄が繋がれている。
 視線をゆっくり下に移動させると縄に繋がれているモノが人間の首である事がわかる。
 長い黒髪で顔は隠れていて見えないが……恐らく既に絶命しているだろう。
 風が部屋に吹き込む度に縄が軋む音を立てた。
 そして縄で繋がれた人間の着ているセーラー服のスカートだけが軽やかに風に靡いていた。

 視界がぐにゃりと曲がり、気が付けば違う場所に移動している。
 今度は古い家の一室のようだ。
 先程は顔を見る事が出来なかったが、この部屋にいる人間は恐らく先程縄に繋がれていた彼女だろう。
 彼女は暗い部屋の隅で静かに泣いていた。
 時折鼻をすするような音が聞こえ、それが一層彼女を哀れに見せた。
 そして彼女の座る床のすぐ側には破れた教科書や汚れた制服が散乱していた。

 再び視界が歪み、先程の教室らしき部屋にいた。
 静かな教室の一番後ろの窓際に彼女は座っていた。
 彼女が微動だにしないのとは対照的に周りの景色や人間がビデオの早送りみたいにせわしなく動いている。
 しかし彼女が席を立ち教室から出ていくと、周りの景色が止まった。
 そして彼女の席に数人の生徒が近付いてきた。
 その生徒たちは笑いながら彼女の鞄の中を荒らし、ある者は教科書を窓の外に放り投げ、
ある者はノートに悪口を書き、ある者は鼻歌を歌いながら彼女の机に花瓶を置いた。
 すると彼女が教室の扉を開けて戻ってきた。
 その瞬間再び周りの世界が早送りのように動き、彼女は自分の机の惨状をただ見つめていた。

「これは……お前の……?」
 俺は無表情で俺の顔に触れ、見つめている存在にこれ以上の言葉を口に出来なかった。
『貴方にならきっと伝わると思っていたわ。貴方は私が見えるし何もしない。私はずっと待っていた、害を与えず私を認識する存在を』
 ヤツは恐らく学校のクラスメートに無視され、いじめられ……そして自殺した。
 心残りは『自分を無視しない人間の存在が欲しかった』ことなのだろう。
 同情はする。
 可哀想だとも思う。
 だが、ヤツの願いを叶える事は『死』を意味する。
 それだけは出来ない。