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 17:30、S大敷地内
 アサコの通う大学の敷地に足を踏み入れた瞬間、風の流れが変わった。
 湿気が肌にまとわりつく感覚にも似て、しかし更に不快にさせる何かを感じる。
 この大学は南側と北側に校門があり南側から入った俺の左右に校舎と思われる建物が一つずつあった。
「どっちだ?」
 敷地全体に漂う不快感をはらむ風のせいか悪霊らしき存在すら感知出来ない。
 集中して探せば見付かるかと思い、深呼吸をした時にコートのポケットに入れてある携帯が震える。
 画面には会社の番号が表示されており、すぐに受話ボタンを押した。
「ケイか」
『シン、もう着いた?』
「あぁ……俺の能力じゃ場所が感知出来ない」
『彼の携帯は南館の3Fにあるみたい。南側の校門からなら入って左側の建物だよ』
「了解。そこまでわかれば十分だ」
 俺はそう言って電話を切ると南館へと走る。
 案の定、出入口の扉には特殊な封印がされた痕跡が見える。
(……中からは開かないようにする能力位は持ち合わせているわけだ)
 そう思い、久しぶりに現場に出た事を改めて実感し、口元に笑みが出来た。
 そして、扉を開けると建物の内部は不快感を感じる重苦しい空気が澱んでいた。
(人間臭いタイプっぽいな……めんどくせぇ……)
 建物内の空気は悪霊のモノと思われる霊気が充満していたからこそ、外に居た時とは違い俺の感知能力が正常に作動した。
 霊気だけで『どんな悪霊か』を見極めるのは経験しないと学べるものではない。
 ただ『重苦しい、湿気よりも不快な霊気を持つモノ』というのはだいたい恨み、妬み、怒り、悲しみを糧に増長したタイプが多い。
 そうすると強制的に消そうものなら最後の足掻きで犠牲を増やす事が多く、説得して成仏してもらう方が安全で確実だ。
 しかし、時間を費やし穏便に済ませなければいけないというのは、どう考えても自分には向いていない。
 だからこそ悪態を吐いて溜め息を盛大に吐いた。
 そして、この面倒臭さが張本人の悪霊に伝わればいいと思いながら、3Fを目指し階段を上がり始めた。