第一話 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16


 注文したアイスコーヒーとアイスカフェモカを受け取り俺は店内を見回す今井に向き直る。
「で、見つけたか?俺には可愛い子以前に同年代の人間も見つからないんだが」
 皮肉も込めてそう言うと今井は首を傾げながら煙草に火を点ける。
 そして煙を吐いて視線を俺に戻した。
「聞いた話だと最近はよく店にいるって言ってたんだよ……」
 そう呟く今井は少し小さく見えた。
「まぁ、タイミング悪かったんだろ……俺はタダでカフェモカ飲めるから文句無いけど」
 俺がそう言い終わった瞬間、店の奥から階段を駆け降りるような音が聞こえた。
 驚いて音のする方に視線を向けると、肩位のカールのかかった茶色い髪で薄いピンクのニットを着た女性が
店の中年女性にカウンター越しに話しかけていた。
「……おい、いまっ」
 俺が今井に声をかけようとした時、ちょうどこちらに振り返った女性と目が合う。
 すると女性は笑顔を見せた後俺達の座る席まで歩いてきた。
「黒猫見つけたのはどっち?」
 女性は俺と今井両方の顔を指差して聞いてきた。
 今井が聞いた女性というのは彼女の事なんだろう。
 いきなり目の前に現れた女性を見つめて今井は驚いた顔のまま硬直している。
「俺、ですけど」
 俺は小声でそう答えると女性は細身のジーパンのポケットから小さな箱を出し、その箱の中から名刺らしきカードを出して渡してきた。
「あなたS大の一年でしょ?」
「はい……」
「私は二年の九条アサコ。あの大学にも多分イるから気を付けてね」
「あのっ……イるって……」
「もしタチの悪いタイプに遭遇したらソコにいつでもかけてきて」
 彼女はカードに書いてある電話番号を指差して笑顔を見せる。
 俺がカードに視線を移し、再び視線を上に上げると九条アサコと名乗った女性は店の奥に行ってしまった。
「コウ、あの子だよ!」
 今井は煙草の灰を灰皿に落としてニヤリと笑った。
 俺は今井の方には視線を合わせずカードを見直した。
 カードには『高原なんでも事務所』と書いてあり、小さい字で『お祓い、調査など気軽にご相談ください!!』と書いてある。
「……それ彼女の名刺?」
 今井の問いかけに俺は首を横に振る。
 住所はこの喫茶店の上のようだが名刺の名前は『所長・高原シン』と書いてある。
 多分上から降りてきた感じからして彼女は事務所でアルバイトをしているのかもしれない。
「俺にも見せてよ」
 そう言って手を伸ばす今井の手に事務所所長の名刺を渡すと今井は一目見てすぐ返してきた。
「勧誘?」
「さぁ?」
「まぁ、可愛いのは確かだったみたいだし、同じ大学みたいだし、名前もわかったし……今日の成果は上々じゃね?」
 コーヒーを飲みながら上目遣いで今井が聞いてきた。
「でも今回はお前のおごりな。明らかに偶然現れた感じだし」
「マジかよ……」
 その後しばらく何気無い会話をし、夜からバイトのある今井とは店の前で別れた。
 店の斜め前の横断歩道を渡った後、さっき出た喫茶店の上を眺める。
 すると窓のところに立っている人と目が合った気がして慌てて視線をそらして歩き始める。
 気のせいでなければ彼は目が合った瞬間、……笑っていた。