第一話 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16


 昔から『変なもの』を見る事が多かった。
 どうやら周りの人達には見えていないらしい。
 目を合わせなければ日常生活には何も被害が無いのもわかっている。
 だから今日も俺は見えていないかのように振る舞うだけだ。
 大人になれば見えなくなるといつか観たテレビの霊能力者が言っていた。
「そういえばお前来週誕生日だよな? 祝ってくれる彼女は出来たのか?」
 引っ越し作業を手伝ってくれた友人の今井が最後の段ボールを運びながらきいてきた。
「……いや、まだバイトも見付かってないのに彼女とか言ってらんないだろ?」
 大学進学に伴いH県の田舎からわざわざ大学から近いS県まで引っ越してきたばかりの俺には 縁遠い話だと思いながら返事をする。
 正式には上京というよりは戻ってきたの方がしっくりくる気もする。
 小学校卒業まではこの街にいたのだ。
 父の転勤でH県に引っ越したが、あの時からいつか必ずこの街に戻ってきてやると幼心ながら誓っていた事を思い出した。
「そっか。お前長い休みある度に俺ん家来てたから……既にいろいろやってんのかと思ってた」
 今井とはもう10年位になるのだろう。
 H県に引っ越しても訛りの多い学校の連中と仲良くなれなかった俺は、 長期休みに入る度に今井の家に押し掛けていた。
 進学する大学のリサーチなどはしていたが、とうとうバイト探しや彼女候補と知り合う事までは間に合わなかった。
「馬鹿言えよ。今井だって今彼女なんていねぇだろ? これは『上京してきたばかりの哀れな田中君の誕生日を祝ってあげなさい』って神様のお告げだよ」
 俺はそう言って最後の段ボールの中身を確認しながら 備え付けの棚に物をしまい始める。
「ははっ、神様が美人のねぇちゃんならお告げにも従うけどな。 ……って、今コウが開けてる段ボールで全部だよな?」
 今井が俺の手元にある段ボールを指差してきいてきた。
「ん? そうだな。そういえば下の車って兄貴の借りてきたんだっけ?」
 俺は視線を今井に向ける事無くきき返した。
「あぁ、今日中に返すって言っちまったから返してくるわ」
 玄関の方から小さな金属音と靴底を擦るような音が聞こえた。
「あぁ、ありがとう。じゃあ明日の入学式の後に連絡するよ」
 視線を玄関に向けると今井は上着を着ながら玄関の扉を開けたところだった。
「りょ~かい。遅れんなよ」
 そう言って今井は笑顔を見せると車の鍵を持つ手を振ってから部屋を出ていった。
 静かになった新居を改めて見渡し溜め息をつく。
 来週になれば19歳になる。
 それから一年経てば20歳だ。
 そうなればもう『変なもの』も見なくなる。
 自分の未来は明るいと確信し自然と口元が緩む。
 その事に気付き慌てて首を左右に振ると、布団を敷くスペースを確保する為再び段ボールの解体作業を開始した。

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