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 17:45、S大・校舎内
「あっ、あの……ありがとうございます。……本当に……助かりました」
 まだ若干声がかすれていたが、構わずに目の前にいる男に頭を下げた。
 男は銃らしきものをコートの内側にしまい、こちらに向き直った。
「怪我はしてないか?」
 男は穏やかな口調で俺に尋ねた。
 俺は高鳴る鼓動を抑えて首を縦に振った。
 そんな俺の様子を見て男は穏やかな笑みを浮かべて近付いてきた。
「そんなに緊張するな」
「あのっ……そういうわけじゃ……」
「そうか?」
「はい……あの……」
 俺はそこで言葉を切り深呼吸をする。
 男は何も言わず俺の様子を窺っているようだ。
「高原……シンさんですよね? 喫茶店二階の事務所の……」
「あぁ」
 俺の質問にあっさりと回答した男は……高原は、少し意地悪そうな笑みを口元に浮かべた。
「金でも請求されるんじゃないか……とか思ってるのか?」
「それもありますけど」
「ん? 他に何かあるのか?」
「どうして……助けにきてくれたんですか……? ヤツじゃないけど、俺は退治を依頼したわけじゃないのに……」
 俺が心の奥に引っ掛かっていた質問をすると、高原は心底不思議そうな顔をした。
「そりゃあ、助けを求める存在を認識したんだ。助けないわけにはいかないだろう」
 高原はさも当たり前だと言わんばかりに返答した。
 どうやら俺は彼を誤解していたようだ。
 そんな事を感じていたら、高原は不思議そうな顔をして俺の顔を覗き込んだ。
「どうした?俺、変な事言ったか?」
「いえ……本当にありがとうございます」
「そんなに感謝されるような事はしてない。……じゃあ、俺は帰るぞ」
 高原は無愛想に応えると階段の方へ歩き出した。
 さっきまで暗くて怖かった校舎には穏やかな静寂で満ちていた。