事務所の外に出て、裏手にある駐車場に向かうと、1台だけある黒い車の中に高原さんが乗っていた。
軽く会釈して車の助手席に乗り込むと、高原さんは無言で車を発車させる。
ここから例のマンションまでは車で10分もかからない距離だ。
発車してしばらくすると、高原さんが煙草に火を点けた後、口を開いた。
「ダッシュボード開けて」
「あっ、はい」
そう言われ、目の前のダッシュボードを開けると、モデルガンのようなものが入っていた。
以前見た高原さんの物とは違い、映画でよく見るタイプの黒い拳銃だ。
「これは……?」
「訓練用。俺が昔使ってたものだ」
そう返事がきたが、意味がわからず首を傾げると、そのまま言葉を続けた。
「前に俺が君の大学でモデルガン持ってたのおぼえてる?」
「はい、幽霊退治したヤツですよね?」
「あぁ、俺のもそれもモデルガンだし、BB弾とかは入ってないけど」
日本で売られているモデルガンはだいたいBB弾などを弾として利用するのは知っているが、それが入っていないと言う。
そう言われて確かめると、確かにマガジンの部分には弾は入っていなかった。
「じゃあ、あの時は何を使ったんですか?」
「自分の霊力とか気とか……まぁ、そういう類のものだよ」
そう言われ、更に首を傾げると、ため息を吐かれた。
「幽霊とか実体の無い奴らには実弾だって当たらないだろ?」
その言葉に激しく頷く。
「だから自分の霊力とかを弾に変換して攻撃するんだ。感覚的には魂の一部を切り離す感じにも似てるんだけど……」
物騒な言葉が出てきて、少し嫌な汗をかく。
「俺はもう慣れたからただのモデルガンでも何でも武器に出来るけど、もしお前が前みたいに襲われた時に助けにいけるとは限らないだろ?」
追い打ちをかけるように言われ、以前の感覚が蘇り、怖くなる。
「だから、それ渡しておく。それは細工がしてあって、お前みたいな普通の人間でも俺と同じように幽霊とかに攻撃できるから」
どういった細工なのかはわからないが、先程引き抜いたマガジンのあった場所を見ると、とても小さい字で何か書いてあるのが見えた。
「ただし、引き金を引いたら強制的にお前の霊力を弾丸に変換して発射するから、1日2発以上撃つなよ」
「もし、2発以上撃った場合、どうなるんですか?」
恐る恐るそう尋ねると、高原さんは少し考えてから返事をした。
「1回撃って全身がだるくなって、2回撃って立てなくなる。3回撃ったら……最悪死ぬかも」
そう言って「2回までは俺の経験談なんだけどな」と付け加えて笑った。
正直、俺からしたら笑い事では済まないが、そこでまた疑問が出る。
「どうして、俺にこれを……?」
そう尋ねると、笑うのを止めて言った。
「今から行く場所はそういうのがいる場所だから」
高原さんは運転を続けているが、俺の様子が気になったからか、こう続けた。
「大丈夫だよ。連れて行く以上は俺がお前を守るから」
そう言って笑う高原さんの笑顔は優しく、そしてとても頼もしく思えた。
同時に俺がしっかりしなければ高原さんの迷惑になるという気持ちが出てきた。
「(このままじゃいけない、強くならなきゃ)」
俺はモデルガンのマガジンを元に戻して上着の内ポケットに入れた。