第二話 1 2 3 4 5 6 7


 林は案の定講義に出席していた。
 教室のドアのガラス部分から覗くと一番後ろのドアに一番近い席に座っていた。
 今井は林を呼び出す為だろうか……講義中にも関わらず、ガラス部分をノックする。
 教授にバレたら怒られると思いヒヤヒヤしたが、教室にいる数人が
こちらに視線をやるだけで、幸い教授には気付かれなかったようだ。
 そして、どうやら林もこちらに気付いたようで、不思議そうに首を傾げた。
「(こっちに来い!)」
 今井が手招きするジェスチャーと口パクで林を呼ぶと、
伝わったのか林は教授が後ろを向いた隙に教室から出てきた。
「何?」
 林は少し不機嫌そうな顔で言った。
「悪い、中野の事について聞きたいんだ」
 俺がそう言うと、林は目を輝かせながら俺を見た。
「中野の事、探してくれるのか?」
「一応そのつもりだけど……」
 俺が恐る恐るそう返事すると、林は溜息を吐いた。
「マジ助かるわ。中野の母さんから毎日連絡来て参ってたんだよ……」
「あぁ、中野と林って小学生から一緒だっけ?」
 今井が思い出したように呟いた。
「あぁ……で、何聞きたいの? 俺、今井にも中野の事は話したはずだけど……」
 林はそう言って今井の方を向くと、今井は何故か俺の方を見てきた。
「何か『異界に行く方法試す』とか言ってたらしいじゃん?」
「そうそう、何か『*ch』に書いてたヤツ試すって言ってた」
 『*ch』とは有名なネット掲示板で、あらゆる情報がすぐ入手出来る為、
オタク気質な奴がよく見に行っている……というイメージがある。
 俺自身はたまに気になる事を調べる位にしか利用しないが、確か中野はそこの
『オカルト板』というオカルトに特化した所を定期的に見に行っていたはずだ。
「で、俺も詳しく知らないけど、最近アイツの家の近所にマンション建ったんだよ。
どうやら10階以上ある建物のエレベーター使うヤツみたいで
『そこでやるから来ないか?』って誘われたんだけど、俺バイト入ってたから断ったんだ」
「それが連休初日?」
「そう、……で、バイト終わってから電話したら繋がらなくて、
次の日に中野の母さんから『帰って来てない』って電話があって、それから毎日……」
「中野に電話したのは初日の一回だけ?」
「いや、あれから日に二 三回は掛けてるけど、一回も繋がらなくて……」
 どうやら林の話からすると、中野が居なくなったのは連休初日で、その日に『異界に行く方法』を試したのは確実そうだ。
 中野の携帯番号は知ってるから、もしかしたら早川さんに頼めば位置の特定は出来るかもしれない。
「わかった、ありがとう! 俺も探してみるわ」
 俺は今井と林を置いて、廊下を駆け出した。
 後ろから『見つけたら教えてー』と林の声が聞こえたのに対し、手を振って返事をした。
 俺の予想が正しければ、恐らく中野は異界に行って出れなくなっているはずだ。
 そして、既に連休初日から3日間経っている事を考えると、早く見付けなければ取り返しがつかない結果になりかねない。
 俺はその嫌な予感を頭から追い出すように首を振った。