第二話 1 2 3 4 5 6 7


 「おはようございます! 早川さん居ますか?」
 事務所の扉を開け、少し大きな声でそう言うと早川さんが作業を中断し振り返った。
「おはよう。珍しいね、こんな時間に……どうしたの?」
「ちょっと早川さんに探して欲しい人がいるんですよ」
「いいよ、友達?」
 控えめに頼むと、早川さんが快く承諾してくれた。
「えぇ、大学の知り合いで『異界』に閉じ込められてる可能性があって……」
 その後の言葉を濁すと、ずっと無言で見ていた高原さんが口を開いた。
「異界?」
 そう訊き返されて、先ほど林から聞いた話をそのまま説明する。
「えぇ、連休前に『*ch』に書いてあった『異界に行く方法』を試すって他の友人に話した後から今も家に帰っていないらしくて」
 それを聞いた早川さんはため息を吐いた。
「また復活したんだね」
 その意味深な発言に首を傾げると高原さんが説明してくれた。
「よく『*ch』とかにそういう方法書いてあるだろ? あれ実際試しても何も起こらないように、早川がたまにハッキングして内容書き換えてるんだよ」
 その後、早川さんが説明を付け加えた。
「嘘の情報は特に書き換えたりしないけど、たまに実際に行うと成功しちゃうものもあるからね」
 そう言いながらも、手はそのまま動かし、すぐにPCのモニターを指さした。
「これでしょ?」
 そう言って指さしたモニターには『*ch』のオカルト板が映っており、そこには以下のように書いてあった。


『異世界に行く方法』
準備する方法:10階以上あるエレベーター

1.まずエレベーターに乗ります (乗るときは絶対一人だけ) 。
2.次にエレベーターに乗ったまま、*階、*階、*階、*階、*階と移動する。
(この際、誰かが乗ってきたら成功できません)
3.*階についたら、降りずに*階を押す。
4.*階に着いたら若い女の人が乗ってくる(その人には話しかけないように) 。
5.乗ってきたら、*階を押す。
6.押したらエレベーターは*階に降りず、*階に上がっていきます。
(上がっている途中に、違う階を押すと失敗します。ただしやめるなら最後のチャンスです)
7.*階を通り過ぎたら、ほぼ成功したといってもいいそうです。

成功を確かめる方法は、1つだけあるそうです。
その世界には、貴方しか人はいないそうです。
そこからどうなるかは、わかりません。
でも一つ言えることは、*階で乗ってきた人は、人ではないということだけ……。


「日付からみても多分これを見たんだと思うんだ」
 そう言った早川さんは、今度は横にあるもう一つのモニターを指さした。
 そこには中野の携帯電話の位置情報が記されており、林に聞いた通り、中野の近所のマンションの位置にあった。
「ケイ、異界確定?」
 そう訊き返した高原さんに早川さんは向き直り頷いた。
 早川さんの返事を確認した高原さんは椅子から立ち上がり、横に置いてあったトレンチコートを抱えた。
「高原さん、もしかして探してくれるんですか?」
 そう問いただした俺を見て、高原さんは少し考えるように腕を組み、しばらくしてからこう訊き返された。
「一緒に行くか?」
「えっ……はいっ!」
 慌てて俺が返事をすると高原さんは鼻で笑い、そのまま事務所を出て行ってしまった。
 俺もそのまま高原さんについて行こうとすると、後ろから早川さんのため息が聞こえた。